翌日、クレアが朝食をとるときには、もうクアントとゼイルの姿はなかった。


「ねえ、お父様は?」

クレアはメイドに尋ねてみると、早朝にゼイルを伴って仕事に出かけたと言った。


「仕事にゼイルを?めずらしいわね。」


しかし、ゼイルと顔をあわせるのを気にしていたクレアにとってはホッとした部分もある。

その後クレアが高校へ行くとキャシーをはじめ、友達がみんなゼイルのことをきいてくる。


「で、彼とどういう関係なのよ?」


「だからアルバイトで執事をやっているってだけよ。
雇ったのはお父様なんだから私はどうこう言えないの。」


「ってことはお父様は、大切な娘のために雇ったのかもしれないのよね。」


「さぁ?でも私はあの人には興味はありませんから。
今朝だって2人で会社に行ってしまって、私は家政婦さんとおしゃべりしてから学校へきたのよ。」


「会社?そっかぁ・・・仕事のサポートかなんかよね。
なんだ、つまんない。」



「つまんないって・・・キャシー・・・。」


「まぁ私たちは若いんだから、出会いもいろいろあるわよ。
じゃ、また明日ね。」


そして、クレアはキャシーたちに数日会うことがなかった。

それはクアントが会社で倒れたと連絡があり、病院で衝撃の事実を知ってしまったからだった。


「父が・・・胃がんですって・・・!」


「もう手の施しようがありません。
申し訳ありませんが・・・」



「そんな・・・。」


クレアはすぐにゼイルのところへとんでいき、事情説明をしろと詰め寄った。


「ゼイル、あなたお父様の体のことを知っていたのね。
どうして、私に何も教えてくれなかったの?
私は小さな子どもじゃないのよ。」


「クアントとの約束だから、言えるわけない。」


「でも・・・でも・・・私は・・・娘なのに。」


「クアントはずっと娘が笑っていてくれるのが、幸せだといっていた。
知ってしまったら、今までどおりの笑顔ができたと思うのか?」



「それは・・・。」


2人は黙ったまま待合室にいた。


その後、クレアは誰がとめることもきかずに、毎日昏睡状態の父親の見舞いをしていたが、とうとうクアントはクレアに何も言い残さないで48才という若い人生のピリオドをうってしまった。


疲労で倒れてしまうクレアをゼイルが抱いて連れ帰って葬儀がいとなまれた。

葬儀の最中にクレアが気づき、何とか挨拶だけはできた。