そして第5ラウンドは来なかった。
彼女の仕事が更に忙しくなり、
私は学生時代のように一人で自炊している。
今は社会人で、金もそこそこある。
妻の収入が私の収入より上なのは問題だが。
向こうは才能ある外科医師だ。
手術もする。総じて、給料に雲泥の差が出るのだ。
それに、父も忙しいらしい。
病院で見る機会も減ったし、
しかも手術の数も減った。
父が月に20回行なっていた手術が、
今は5回に減っていたし。
それは父の弟子である私の妻の喜美枝が優秀であるのと、
もう一人のゴッドハンドの小田切が優秀だからだ。
二枚目の若い外科医。
非常にムカつく。才能の違いをむざむざと見せつけられる。
彼の手術の量は、私の妻よりも多い。
総じて、収入も妻よりも多い。
「沢村先生と小田切先生がね……」
「えー!? 本当ですか!?」
私と小田切では無さそうだ。
分かってはいたさ。
私と妻は釣り合わない。
小田切との禁断の恋に目覚めても、
何の不思議もない。
彼女は仕事が忙しいと言うより、
小田切と会うのが忙しいらしい。
私はどうすればいい?
幸いにも子供はいない。
別れるべきなのかも知れない。
天才と凡人が結婚したのが間違いだったのだ。