「千晶」


少し強めに、うつむいたまま袖を引っ張り続ける千晶を呼ぶ。


それだけで。


「っ…」


そっと手を離した。



そう、千晶は従順なのだ。



いつも俺がわがままやられてる気がするが、彼女の方が従順度は上。

俺はいつも我慢というかスルーしているだけ。


素直で、でも甘えん坊の彼女は意を決したように。


「陽、愛してるから」


「ん」


「だから、行かないで?千晶を一人にしないで?」


「千晶。自分で約束しちゃったんだから…」


「でも…」



不安で不安で怖くて仕方がないらしい彼女の頭をポンポンと叩き、笑ってやる。


「何かあったら電話して?すぐいくから」


靴を履き、ドアを押す。


さっきの言葉だけではやっぱり不安を拭えなかったのか、悲しそうな視線が痛くて、外に半分飛び出した顔をもう一回彼女に向けた。



「千晶のこと、好きだから」



「陽…!」


一言で表を晴れに変えた千晶。


可愛くて少し笑いながら、外に出て、千晶の視線を遮断した。



好きだから、なんだと言うのだろう。