昔の千晶は普通だった。


言い方はおかしいが、今よりは普通だった。


『し』『せ』『つ』で仕事を終えた後以外は、本当に普通の女の子だったのだ。


普通に友達もいて、おしゃれもして――普通だった。



鳳紀が死んでからだ、可笑しくなったのは。



「……」


今から考えれば、普通なことが普通じゃなかったんだ。


あんな『し』『せ』『つ』にいながら、なんで普通でいられる?


あんな『行為』を犯していて、なんで普通でいられたんだ?


返り血を浴びたときでさえ普通だった。


そう、可笑しかったんだ――





「ようは、そこまで大きい存在だったのかってこと?」





何やらカキカキしながら、砂糖水というアンビリーバボーなチョイスを口に含む。


すこし妖艶な仕草なそれを、惜しげもなく晒しながら相談に乗るは先生。


一時間目が終わってすぐに来た。


「んー、でも鳳紀は実の兄だし。存在としては大きいんじゃねーのー?」


「大きすぎだろ。
『殺った』ときでさえ普通だったんだから」


「まああれは正当防衛だし?突っ込むな突っ込むな」


けらけら笑いながら、立ち上がって棚からファイルを取りだし、また席に戻る。


「…で?その友達申請ちゃんは何を考えてるの?」