目を開けると、やはり視界には千晶。


俺の温もりを奪おうとでも言うのか、手をいっぱいに広げて千晶にしたら大きい俺を抱き締める。


座ったままの俺と、立った千晶。


さすがに千晶のほうが高かった。



「…大好き」



すりすりと制服姿の俺の胸板に、頬を寄せる。


まるで猫みたい。




「…だから虚しいなんて言わないで」


「千晶」


「千晶は虚しくなんてないよ?

お兄ちゃんやメイがいなくたって、私は陽がいるから。

全然虚しくなんてないの」



メイ。


昔確かに存在した、その名前。



「陽はおんなじ気持ちじゃないの」


「…千晶は好きさ」




千晶は好き。

大事にしたい。



恋愛感情かはわからないけど。



でもそれで気持ちがいっぱいになって、昔確かにいた人たちを忘れることはできないんだ。



「なんでだろーね」



俺と千晶の違いはなんだろう。



答えは明白。





互いが互いを恋愛対象として見ているか。





千晶は好き。

千晶は大事。



けれど、ありきたりな小説みたいにドキドキはしない。




黙りコクった俺に、千晶はそっと暗示のように言う。



「千晶今、すっごい幸せ」



すりすりすり。


ここで「俺も」と言えば、千晶を安心させられるんだろうな。