ガチャ
晃がいる部屋のドアを開ける。

「失礼します。」
「パパー!」
「おぉ!歌菜~!」

歌菜は晃に駆け寄り、晃はそれを受け止め持ち上げる。

「晃。」
「慧里奈。ごめん。」
「何に謝ってるの?」
「今日は1日空けてるはずだったのに、仕事が片付かなくて...。」


私は笑いそうになる。
きっと広菜さんが持ってきてくれたお茶を飲んだのだろう。

「ふふふ。熱かった?」
「あぁ、かなりな。それと、広菜さんから怒られた。」
「本当は仕方ないってわかってるんだけどね。やっぱり今日だけはって思ってたから。」
「そうだな。義兄さんもこれだから、やりたくなったんだろうな。」
「だね。お兄様は社長の地位は本当に要らないみたいだし。」
「最初言われた時は押し付けられたみたいだったよ。」
「そうね。」


慧里奈は思い出したように里奈達がいることを伝えるとじゃあ、少しだけ会いに行こうかなと歌菜を下ろして3人で部屋を出ながら話の続きをする。

地位などの話は、歌菜にはやはり内容は分かってないらしく、「ねぇ!なんの話ししてるの?」としつこく晃に聞いている。


「ねーってば!」
「歌菜の話をしてたんだよ。」
「歌菜の話?」
「そう。歌菜は可愛いなぁって話。」
「ほんと?じゃあ、パパ!あれして!」
「ん~。歌菜を仕事で待たせてるから、特別な?」
「うん!」


そう言うと歌菜の頬にキスをする。
すると歌菜は嬉しそうに「キャー!」と言って、恥ずかしそうに走って先に行ってしまった。


「ふふ。自分で言ったのにね。」
「全くだな。」

そこで静寂が訪れて、慧里奈は黙り込む。
だが、慧里奈が思っていることは晃は分かる。

「慧里奈は未だに素直じゃないな。」
「この歳で素直すぎたら、逆に気持ち悪いでしょ。」
「この歳って言ったってまだ30代半ばだろ。」
「そうだけど...」
「ほら。」

そう言って足を止めて、向かい合う。

「ほらじゃないし。」
「歌菜は今いないぞ。」
「...。晃は私に未だ素直じゃないっていうけど、晃だって未だそうやって私から言わそうとする。」
「慧里奈は普段から自分の思ってることは言わないから。」
「そうだけど...。」


いつも言ってることが正しくて、悔しい。
だから、仕返しをする。

「な?ほらーー」


チュッ
晃がビックリした顔で私を見る。
普段は私からは恥ずかしくて絶対しない。
だからかすごく驚いている。
これでも頬にだけど...。

でも何を思ったのか晃は、

「そこじゃない。」
「へ?」

まさかの言葉に私は固まる。

「ここだから。」


そう言って晃は自分の唇を触る。
それを見て自分の顔が赤くなるのがわかった。
晃は先程の驚いた顔ではなく平然としている。


「ふっ、可愛い。」

余裕そうに笑っていた。
笑顔のまま言った後、私にキスする。


「そういう突然なところも、また変わらないな。」
「晃も。もう1回してくれる?」

負けじと言ってみる。

「慧里奈にはほんと、かなわないよ。」

そう言って顔を近づけてきたので、目を閉じる。
すると耳元で...


「愛してる。これから先ずっと。」

それから私にキスをした。
私はついていけず、唖然とする。

「ほら、みんなが待ってる。行こう、慧里奈。」
「う、うん。」


応接間の扉を開ける。


「慧里奈、遅いわよ。」

そう言って私を見ている里奈。

「あ!慧里奈~!お久しぶり~!」
「お、すげーキレイになったな!だけどやっぱり柑那が一番だけどな。」

いつも通りの柑那と涼太。

「慧里奈。ほんとに久しぶりだな。」

懐かしい顔をしている翔太。



「みんな相変わらずだね。」

私はほっと安心する。



「じゃあ、準備するか。」

翔太がそういうと、柑那が茶化す。
「なんせ歌菜の誕生日だもんね!それは翔太は張り切るね!」

そこに里奈まで参戦する。
「そうね。翔太は歌菜が大好きよね。」

それは私にとって、とても嬉しい会話。
自分の娘が好かれているのだから。

そう思っていると涼太がトドメを指す。
「歌菜は慧里奈に似ーー」
「お前!」

翔太は何を焦っているのか、最後までは聞こえなかった。
だか、みんな楽しそうだ。

「涼太、覚えておけよ。」
翔太は涼太を睨んでいる。

「わ、わかったから。早く、やろうぜ?」
焦る涼太。


そんなこんなで準備が始まった。


そんな慌ただしい日。