「そこのやつとってくれない?」

彼が机の上に重なった資料の1番上を指さす。

「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」


晃は今、事務仕事をしている。
私はそれを横でサポートしているけれど...。

高校を卒業して、晃は神崎グループを継ぐために経営学を、
私は彼の秘書になるために法学を、その他にも政治学・社会科学を大学で学んできた。

私が高校生の時、お父様は神崎の後継者は私だと言ってくださった。
けれど、私にはそんな力はないし、結婚は大学を卒業をして仕事が少し安定してからがいい。
そのことを高校の卒業時に伝えると『では晃に継がせて、結婚も延期しよう。』と言った。

大学卒業後は結婚を前提に2人で支えあってきた。
結婚式の時は里奈や翔太達は心から私たちを祝福してくれた。
神崎家ってこともあって、記者やテレビ関係者は沢山来て盛大な結婚式だったけど...。

そんな結婚式ももう10年前の話。

「お茶持ってくるね。」
「あぁ。」


バタン

部屋を出て、長い廊下を歩く。
すると、子どもがこちらに駆け寄ってくる。


「ママぁ~。」
「どうしたの?歌菜(カナ)。」


この子は私と晃の最愛の子。
歌菜は今日で8歳の誕生日。


「お出かけしないの?」
「パパが、お仕事だから夜まで待ってくれる?」
「慧里奈様、申し訳ないです。」
「いいの。広菜さん。むしろいつも助かってます。あ、晃にお茶を持ってって貰えないかしら?すごく熱いやつ。」

私はにっこり笑って、広菜さんに言う。

「かしこまりました。きつく言いますね。」


彼女はそう言って、厨房へ向かった。
私の子どもの頃からずっと傍にいてくれるだけあって、言いたいことが分かるみたい。


「ママぁ。」
「歌菜。このあとね、駆(カケル)くん達くるよ。だから、もうちょっとだけ待っててね。」
「は~い...。」


駆くんは里奈の子どもで同い年の男の子。
いわゆる幼なじみだ。
里奈の旦那さんは、高校の時から付き合っている年上の人。


「ねぇ、歌菜、今日のお夕飯は何が食べたい?」
「んーっとねー、歌菜はなんでも食べれるよ?ママとパパがいれば歌菜は無敵だからね!」


なんでこんなにも子どもは純粋なんだろう。
そんなことをふと思ってしまう。