礼奈はそんな俺にギュッと抱き着いた。

「私が好きなのは、創ちゃん」

 そうだ、礼奈が好きなのはこの俺だ。
 高校生相手に、何を焦ってるんだ。

 礼奈の制服は、真新しい生地の匂いがする。

 高校生になった礼奈。
 中学校の制服姿よりも、数倍チャーミングだ。

 礼奈が大人になれば、俺と敏樹の約束はもう時効だよな。

 高校生は大人だよな。
 法改正されるまでは、女子は十六歳で婚姻だってできる。選挙権も十八歳からだし、もしかして……もう解禁?

「創ちゃん、明日の入学式に来てくれる?」

「もちろん。それより……」

 いい雰囲気。
 記念すべきファーストキス。

 唇を近付けると、礼奈はゆっくりと瞼を閉じた。

「おい創! 解禁だと思うなよ。礼奈はまだ女子高生で、大人じゃねぇ」

「うわわ、お前いつの間に!?」

「俺が部屋に入ったことも気付かないのか。このドスケベ」

 ていうか、だったらいつ解禁なんだよ。

「敏樹、礼奈の部屋に勝手に侵入すんなよな」

「うっせぇ。礼奈に客だ。友達が来てたぞ」

「礼奈の友達?」

 敏樹は低い鼻先を指で弾き、自慢気に言い放った。

「男だったから、俺が追い返してやった」

「男? どんな奴だよ?」

「身長が高くて、イケメンでツンツン髪を立ててる生意気な野郎だ」

 一体、誰なんだよ。

「敏樹、名前を聞かなかったのか?」

「名前を聞く必要なんてねぇだろう。礼奈につく害虫は即退治しないとな。お前にも害虫駆除剤を撒きたいくらいだ」

「ふん、害虫で悪かったな」

「お兄ちゃん、私の友達を勝手に追い返さないで。急用だったらどうするの」

 礼奈は怒りながら、窓のカーテンを開けた。 人影を見つけちょっと驚いた顔をして、部屋を飛び出した。

「礼奈? どうしたんだよ!」

 窓から外を見ると、門の前に桐生が立ち二階を見上げていた。俺は桐生と視線が重なりギョッとする。

 桐生は爽やかな笑みで、俺に会釈した。

 な、なんで、アイツがここにいるんだよ!
 なんで、礼奈は慌てて飛び出したんだよ!

「なっ、ヤバいくらいイケメンだろ? 創よ、御愁傷様」

 敏樹が鼻で笑いながら、俺の肩をポンッと叩いた。

 確かに……。
 以前逢った時よりも、さらにイケてる。

 この数週間で、中坊の殻を脱皮したようだ。