【礼奈side】

 ――受験当日、フローラ大学附属高校の保健室。

 心配性の創ちゃんに薦められ、公立の受験もするけど、私の第一志望校はあくまでもフローラ大学附属高校だ。インフルエンザなんかに負けていられない。

 保健室のドアが開き、誰かが入室した。担当の先生と挨拶を交わしている。

「おはようございます。あれ、南じゃん。お前も保健室受験?」

「おはようございます。えっ? 桐生君もインフルエンザ? コホ、コホ」

 私達は二人とも大きなマスクをしている。

「昨日から発熱したんだ。体調はまじで最悪。でも南もここで受験するなら、俺、頑張るよ」

 桐生君は目を細めて笑った。保健室には他にも数名の受験生がいた。みんなインフルエンザだ。

 私達は先生に指示された席に着く。私は鞄から筆箱を取りだし、机の上に創ちゃんのシャーペンを置いた。問題用紙を配られ、緊張しながら時を待つ。

「はい、始めて」

 一斉に問題用紙を捲る音がし、カリカリとシャーペンの走る音。発熱と薬のせいで、頭はボーッとして集中出来ない。

 焦りからテンパりそうになった時、創ちゃんの顔が浮かんだ。瞼を閉じ深呼吸をする。気持ちを落ち着かせ創ちゃんのシャーペンを握った。

『ずっと傍にいる』

 創ちゃんの声が、鼓膜に甦る。創ちゃんと一緒に、あんなに勉強したんだ。絶対に合格する。

 気力を振り絞り神経を集中させ、私は問題を解いた。

 ――三科目の数学の試験が終わり、明日の面接で試験は終了だ。コンディションは最悪だが、何とか乗り切ることが出来た。

 校門を出ると、桐生君が話しかけてきた。

「南、試験出来た?俺、全然自信ないよ」

「私も自信ないよ。でも明日の面接は頑張る」

「俺も絶対合格する。合格したらさ、俺と付き合ってよ」

「えっ?」

「ショップで言ったこと、本当なんだ」

「私と……?」

「ごめん、まだ受験が終わってなかったね。受験が終わったら、また告白していい?」

 また告白!?

 ……それは困る。

 私には『創ちゃん』という、ラブラブな彼氏がちゃんといるんだから。

「えっと……。取り敢えず明日の面接を頑張ろう」

 ……みたいな。

 桐生君はカッコいいし、高校生になっても多分モテモテだし。私のことなんてきっと忘れちゃうよ。

 それにフローラ大学附属高校は倍率高いし超難関校。二人揃って合格するかどうかわからない。