俺は週に三回、バイトのない日は礼奈の家に通い家庭教師をした。週末のデートも惜しんで勉強三昧だ。

「ねぇ創ちゃん、先生と彼氏のONとOFFして。平日は『先生』で週末は『彼氏』の創ちゃん。週末くらいデートしようよ」

 甘えた声で誘惑しないでくれよ。
 俺は毎日『彼氏』でいたいけど、志望校を聞いてしまったからには、そんな余裕がないくらい焦りを感じているんだから。

「フローラ大学附属高校を受験するなら、遊ぶ暇も惜しんで勉強しないと無理だよ」

「わかってます。でも受験生もたまには息抜きが必要なの。勉強ばかりだとおでんみたいにグツグツ煮詰まっちゃうよ」

「おでんは煮詰まった方が、味が染みて旨いんだよ」

「意地悪だな。ムチばかりだとやる気が失せる。先生、たまには飴を下さい」

「仕方ないなぁ。週末はデートするか」

「やったぁ~!」

 礼奈はクローゼットから次々と洋服を取り出しては鏡と睨めっこする。

「創ちゃん、赤いワンピースと青いワンピースと黄色いワンピース、どれがいい?」

 ていうか、信号機かよ。

「どれも似合ってるけど、俺の前で着替えるなよ」

「だったら、後ろ向いててよ。今日は青いワンピースにするね。青は進めだから」

 後ろ向けって?
 この部屋で着替えるなんて、それ反則だよ。

 俺の後頭部に目玉が移動するだろ。

 ていうか、背後でバサバサ洋服を脱ぎ散らかすなんて、俺の脳内が妄想で大パニックだ!

 チラッと振り向けば、キャミソール姿の礼奈!?

 『青は進め! いけー!』欲望が口を開く。
 ダメだダメだ!俺は家庭教師なんだってば。

 『淫らな妄想はご法度』理性が欲望の前に立ちはだかる。

 『いや、さっき家庭教師はOFFにしたから、今は彼氏だろ。だったらONだ』

 お、ON!?チラッと見るのはOK?

 礼奈に気付かれないように、チラッと……。

「やっぱり見た」

 礼奈がこっちを見てニマッと笑った。
 空みたいに鮮やかな、ブルーのワンピースだ。歩くだけでフレアスカートがヒラヒラしている。

「下心なんてない。もう着替えたかなって、思っただけだよ」

「本当かな?」

 礼奈は上目遣いで、俺をからかう。

「本当だってば。今日はどこに行く?」

「原宿! 創ちゃんと行きたいショップがあるの」

「はいはい、原宿ね」

 俺達は礼奈の家を出て、手を繋ぎ駅に向かった。

「創ちゃん、風が気持ちいいね」

「そうだな」

 礼奈の手をギュッと握ると、礼奈は嬉しそうに笑った。

 俺にとって、礼奈の笑顔が最高のご褒美だ。

 擦り擦りと仔猫みたいに体を寄せる礼奈。高校生の頃よりは多少落ち着いた俺だけど、姫の誘惑には今でもドキドキさせられる。