「この英文を和訳してみて」

「えっと、『彼女は彼を優しい眼差しで見つめた』」

「そうそう。正解」

 礼奈は英語の読解力もあるんだな。

「彼女はどんな眼差しで彼を見つめたのかな? こんな感じ?」

 礼奈は上目遣いでパチパチと瞬きをする。悩ましい眼差し、しかも顔を歪ませてヘタクソなウィンクまでしている。どうやら俺を誘惑してるつもりらしい。

「礼奈、ふざけないで真面目にやれ」

「創ちゃんと二人きりなのに。勉強だけ真面目にやれって……むり~」

「俺は礼奈のなに?」

「彼氏!」

「違う」

「恋人ー!」

「違う、今日から家庭教師!」

 今は……な。

 礼奈はシャーペンを頬にコツンコツンとあてながら、何やら考えている。

「家庭教師になると、彼氏じゃなくなるの?」

「今は家庭教師だよ。受験が終わるまで、彼氏は封印する」

「嘘だぁ~」

「俺は本気だよ。礼奈を必ず志望校に合格させるからな」

「創ちゃん、家庭教師と生徒って、禁断の恋に堕ちたりしないの? 小説とかマンガとか、先生と恋愛してるよね?」

「礼奈、何を言ってるんだよ」

「禁断の恋って、考えただけでドキドキするね。大好きな先生と両想いになるなんて、胸キュン間違いなしだよね。幼なじみだったのに、萌えキュンシチュエーションが増えたね」

 萌えキュンシチュエーションって何だよ。
 倦怠期のカップルじゃないんだから、そんなの必要ないだろ。

「礼奈、いい加減にしろよ。勉強しないならもう帰るよ」