「なぁ、創。キャンプいかね?」

 夏休みも終わりに近づいた頃、敏樹からキャンプに誘われた。

「キャンプ? いいね」

「だろ。高校最後の夏休みだし、良も誘ってさ」

 良は俺達の共通の友達、林田良介《はやしだりょうすけ》だ。

「何処にいくんだよ?」

「そりゃあ、山より海だよな。キャンプは海に決まってるだろ。湘南だよ、湘南」

「男三人で行くのか?」

 野郎三人でキャンプって、礼奈にナンパ目的だと勘違いされそうだよ。

 しかも狭いテントで、抱き合って寝る気かよ。

「バカか、彼女同伴に決まってんだろ」

「えっ? 彼女同伴!?」

「そうだよ。彼女同伴。それなら創も行くだろう」

 俺の脳裏に、ニコッて笑った礼奈の顔が浮かんだ。礼奈とキャンプだなんて、初体験だよ。礼奈の水着姿を想像しただけで、デレーッと鼻の下が伸び鼻息が荒くなる。

 こ、これはヤバすぎる。

「こらっ、何コーフンしてんだよっ!」

 敏樹にピシャリと頭を叩かれ、妄想の世界から現実に戻った。

「いや……そのう……」

「てめぇ、礼奈を水着にして妄想してねぇだろうな!」

「……いやいや、着せ替え人形じゃないんだから、そんなことは……」

 ていうか、妄想するに決まってるだろ。
 大好きな礼奈と初キャンプなんだよ。

「この間のこともあるし、お前を殴ったせいで礼奈はまだ怒ってるし、礼奈の機嫌をとるために、今回は礼奈の同行を許可するけど、創、わかってんだろーな」

 つうか、お前は礼奈の親父かよ!
 なんで、敏樹の許可がいるんだ。

「わかってるよ。『礼奈に手を出すな』って言いたいんだろ!」

「そーそー。わかってればよろしい」

 ――くそっ、兄妹揃って俺を虐めるのか?

 仔猫みたいにスリスリ擦り寄って、蛸の吸盤みたいにはりついて離れない礼奈に、俺が対抗できると思ってるのか。

 だけどその誘惑に負けて、俺が礼奈に手を出したら、敏樹にボコられるんだよな。

 俺はどうすればいいんだよ。