思わず礼奈にキスをしそうになり、「フンッ」と鼻息で顔を上げる。礼奈がムギュて抱き着くから、俺は必死に顔をそむけ天を仰ぎ違うことを考える。

 今日の晩飯は、何が食いたいかとか。
 今日の天気は、雲ってたなとか。
 欲望を全部ロケットに詰め込み、別の場所にぶっ放す。

「礼奈、『キスしてもいいよ』なんて反則だよ」

「……反則だっていいもん」

「礼奈には『ダメ』って言ってくれないと、俺が困るんだ」

「創ちゃんにダメなんて言えないよ。そんなことをしたら、礼奈のことを嫌いになって、年上の彼女と浮気するんだから」

「……っ」

 まだ、まどかのことを疑ってるのか。
 そんなことで、いちいち浮気なんかしないよ。

 俺のお姫様は、かなり挑発的だ。

 バクバク鳴ってる煩い心臓に、『落ち着け』って何度も言い聞かせてるのに。暴走族と化した心臓は『ブルルン』と爆音を鳴らす。

 礼奈は俺の心臓を破壊する気か?

「……創ちゃん、もう一回ハグして」

「もう……おしまい」

 ソンナコトをしたら、俺は……俺は……。

 頑張れオレ!

 オレは忍耐力のある子だ。
 お姫様の甘い誘惑に、負けないでくれ。

 礼奈が大人になるまで、我慢するって決めたんだ。

 『有言実行』四文字熟語で、一番嫌いな言葉。

「創ちゃん、何歳になったら大人なの? 選挙権が十八歳になったから、二十歳じゃなくて、十八歳から大人なんだよね? 礼奈、早く十八歳になりたいな」

「慌てなくていいよ。礼奈は今のままで可愛いから」

「可愛いいより、綺麗とか魅力的とか言われてみたい」

 そんなこと言われても。
 めちゃめちゃ可愛いんだから、仕方がない。

「創ちゃん、『好き』って百回言える?」

 子供染みたお遊びだな。

「好きは一回で十分。バナナの叩き売りじゃないんだから」

「そう、言えないんだ……」

 俺を試しているのか。

「言えますとも! 好き、好き、すき、すき、スキスキスキス……」

 俺の頬に、チュッて触れた唇。

 やっぱり、礼奈には敵わない。