俺は礼奈を両手で優しく抱き締めた。
 礼奈は頬を赤らめ俺を見上げた。

 色っぽいな。
 めっちゃキスしたい。

 でもそれをしてしまうと、欲望の思う壺だ。 俺は欲望なんかに負けないんだよ。

「創ちゃん……いいよ」

「いいって?」

「お兄ちゃんいないし……」

「礼奈、俺を困らせないで」

「……つまんない」

 つ、つまんないって。
 あんまりだ。

 俺はモグラ叩きみたいに次々顔を出す欲望を、ハンマーでバンバン叩いて粉砕しているんだよ。

 本当は今すぐ礼奈をベッドに押し倒したいのに。

 でも俺は、そんなことはしない。
 礼奈と心と心で繋がっていたいから。

 だけど十ハ歳の男子には、かなりキツい我慢大会なんだよ。

 俺の腕の中で、礼奈が呟いた。

「創ちゃん……」

「なに?」

「……キスしてもいいよ」

「はあ?」

 俺は思わず声を張り上げた。

『つまんない』の次は『キスしてもいいよ』って。どこでそんなセリフを覚えたんだよ。中学校の教科書には載ってないだろう。

 俺を東京湾の魚の餌にする気か。
 礼奈の誘惑に負けたら、敏樹に何をされるかわからない。

 やっぱり礼奈は小悪魔だ。

 仲直りはできたけど、この誘惑が続くなら蛇の生殺しだよ。

 だあああぁ……。

 礼奈のタンクトップから、胸の谷間がチラチラ見えて、それはそれは刺激的な光景で。

 俺の頭の中で誘惑の花が咲き乱れ、その甘い香りにクラクラしてる。