礼奈が大泣きした原因は、敏樹が俺を殴ったからではなく、きっとまどかのことに違いない。

 でも敏樹は、俺がまどかと出会ったことを知らない。

「お前は俺が殴ったことで、礼奈を嫌いになんねぇよな?」

「……なるかっ」

 俺達の恋は、そんなことで壊れたりしない。

「そっか、安心したよ。頼むよ、創。あいつの機嫌を直してくれよ。妹なのに礼奈に無視されるなんて、我慢できねぇよ」

「お前が俺に頭を下げるのか? 俺、礼奈と一線越えちゃうかも」

「……ぐっ! い、一線? 一線って何だよ。その線を一歩でも越えたら、お前をズタズタに切り刻んで東京湾の魚の餌にしてやる」

 敏樹が凄い形相で俺を睨んだ。

 じょ、冗談だってば。
 魚の餌って、怖すぎる。

「い、今のは冗談に決まってるだろ。俺は礼奈のことを誰よりも大切に思ってるし、それに中学生には手を出さないよ」

「まさかの中学生ー!」

 クラスメイトが一斉に声を張り上げた。

「外野がいちいちうっせぇな」

「創、お前、女好きだよな? 年上のまどかと付き合ってたのに、よく中坊と付き合ってられんな。オマケに敏樹そっくりで手も足も出せない清らかな交際?それ、高校男子にしたら、最悪じゃん」

 ……ぐぐっ。
 コイツらをボコボコに殴ってもいいですか?

 何度も言うが、礼奈のどこが敏樹にそっくりなんだよ!

「礼奈は敏樹には似てません」

「クククッ、どうだかな? しかしよく我慢できるな? キスもできないんだよな?」

「だからぁ、あいつは特別なんだよ。礼奈と俺は、心と心で繋がってるんだ。ピュアなんだよ」

「ちょっとみんな、聞いたか?ピュアだって。心と心が繋がる? 創、まじで言ってんの?あと何ヶ月持つかな? 高校生に純愛なんてありえねぇだろ?やっぱり愛を確かめないと」

 好き勝手にほざいてろ。
 礼奈をこれ以上冒涜するなら、あとで殴ります。

 友達にピュアな恋だと断言したものの、正直不安だった。

 礼奈はまどかと俺の関係を疑っているんだ。
 あんな些細なことで疑うなんて、俺と礼奈は本当に心と心で繋がってるといえるのかな?