可愛い姫に誘惑されて困っています。……と、見せかけて、本当はサイコーに幸せ。

 【創side】

 まどかを自転車の後ろに乗せて、駅まで飛ばす。

 まどかを後ろに乗せているのに、頭の中は礼奈のことで埋め尽くされている。

 どうしてまどかに『彼女だよ』って、はっきり言えなかったんだろう。

 俺は礼奈を……傷付けてしまった。

 あいつ……泣いてないよな。

 ――駅に着き、まどかが自転車から降りる。

 まどかの長い髪の毛が風に揺れ、甘ったるい香水の匂いがした。

 デートのたびに、まどかが愛用していた懐かしい香水の匂いだった。

「ありがとう。創が元気そうで安心したわ。あれからどうしてるのかなって……思っていたから」

「俺は元気だよ。まどかも元気そうで安心したよ。まどかはまだアイツと続いてるのか?」

 俺がまどかと別れた原因は、まどかに新しい彼氏が出来たから。高校一年の冬、まどかに俺以外の彼氏が出来た。俺はまどかに二股されていたんだ。

 しかも相手は二十四歳の社会人だった。一流企業に勤め高級車を乗り回し、親の財力もあり、高校生の俺には到底敵わない大人の魅力を全部兼ね備えていた。

 俺はまどかのことが本気で好きだったから、『他に好きな人ができたの』って告白された時は、凄くショックで落ち込んで……。

 まどかの気持ちを取り戻したかったけど、大人の男に高校生が勝てるわけもなく……。

 結局俺は、無様な姿をまどかに印象づけたまま、フラれたんだ。

 ――そして、その年の夏。
 俺は中学生の礼奈に告白された。

 礼奈なら俺を裏切らない。
 純粋に俺だけを好きでいてくれるに違いないと、勝手にそう思った。

 もう傷付きたくない。
 恋に臆病になってしまった俺は、ピュアな礼奈の想いに癒された。