【礼奈side】

 創ちゃんを見送るために家の外に出たら、綺麗な女の人が声をかけてきた。

 少し栗色の長い髪は毛先が緩やかなウェーブをえがき、整った顔立ちの美人。彼女が近付いただけで、ふわっと甘い香水の匂いがした。

 彼女は誰なの?

 創ちゃんのことを、『創』って親しげに呼び捨てにした。

 私のことを『妹さん?』って聞いてきた。

 創ちゃんは、彼女にどう答えるの?
 私のこと、ちゃんと彼女だって紹介してくれるよね?

 それなのに創ちゃんは、私を『友達の妹』だって、言ったんだよ。確かにその通りだけど、私は創ちゃんの彼女じゃないの?

 それともお兄ちゃんに殴られて、私のことなんて嫌いになったのかな?

 どうしよう……。
 私、創ちゃんに嫌われたんだ。

 女の人は甘えるように、自転車の後ろに乗った。長い髪がふわっと揺れた。

 自転車の後ろにちょこんと横座りして、創ちゃんに背後からギュッて抱き着き、広い背中にコテッと頭を密着させた。

 ……ありえない。

 自転車の二人乗り。

 ダメだ……。
 もう……泣きそうだよ。

 二人のイチャイチャする姿を見ていられなくて、私は無言で家の中に入った。

 「リンリン」と、自転車のベルの音がドア越しに聞こえた。

 まるで『さようなら』って、別れを告げているみたいに。

 玄関ドアに背を凭れていると、ドッと涙が溢れてきた。

 私は、ただの『友達の妹』なんだ……。

 ダムが決壊したみたいに、ダダーッて涙が流れた。

 大人の女性……。
 創ちゃんとお似合いだよ。

 きっと……
 あの人と付き合ってるんだ。

 創ちゃんの本命は彼女で、私は『友達の妹』に過ぎない。

 だから、中学生の私とは本気になれないんだ。

 胸がキューッと締め付けられ、鼻腔の奥がツンとした。次々と溢れ出る涙。

 創ちゃん……。
 涙が止まらないよ。