【礼奈side】

 一橋先輩はあの時、立ち止まって私を見つめてこう言った。

「南が好きになるくらいだから、交際している人はきっと素敵な人なんだろうね。南、幸せにな」

 それなのに、家から飛び出した創ちゃんは一橋先輩に掴みかかり殴った。

 あの穏やかな一橋先輩が創ちゃんに殴り返すなんて、予想外だった。

 でも殴り合った二人は、スッキリした顔をしていた。

 私の大好きな創ちゃんは、早とちりでヤキモチ妬き。

 でも『俺の礼奈に手を出すな!』って、言ってくれた時は、一橋先輩には悪いけど、凄く嬉しかった。

 大学生になった創ちゃんが、とても大人に感じて不安になることがあったけど、そんな不安が吹き飛ぶくらい嬉しかった。

 一橋先輩が帰ったあと、二人で手を繋いで夜空を見上げた。今日は都内でも星が見えて、あの夏のキャンプを思い出した。

 創ちゃんと私が、はじめて一緒に夜を過ごした夏の日。十四歳の私は勇気を出して創ちゃんにありったけの想いを伝えたのに、創ちゃんは額にキスをしてくれただけ。

 それでも……。
 私にとってあの日はサイコーに幸せな夜だった。

 懐かしいな。

 創ちゃんは私の男友達をみんな狼だと決めつけて、私のことばかり心配するけど、私は創ちゃんのことが心配なんだよ。

 大学生の創ちゃん、イケメンだし優しいし、きっと女子学生にモテモテのはずだから。

 創ちゃんが浮気しないのは、お兄ちゃんが創ちゃんに近寄る女子を蹴散らしているから?

 そうだとしたら、煩いお兄ちゃんに少しだけ感謝する。

 高校に入学してまだ数ヶ月なのに、色々なことがあった。

 でもそのことで、創ちゃんのことが本当に大好きなんだって、自分で再認識できた。

 もっともっと創ちゃんを独り占めしたい。

 だからね……。

「創ちゃん、キスして」

「は? バ、バカ。ここは歩道だ。しかも礼奈の家の前、敏樹は二階の窓にヤモリみたいに張り付いてこっちを見張っているのに。こんなところでキスはできないよ」

 創ちゃんは、以前と同じリアクション。
 創ちゃん、可愛い。

「じゃあ、礼奈の部屋ならいいの?」

「礼奈の部屋?」

「うふっ」

「うはっ」

「隙あり」

 うーんと背伸びして、創ちゃんの頬にチュッてキスをした。

 私だけの白馬の王子様。
 私のファーストキスは、創ちゃんにしかあげない。