【創side】

「創、あれ礼奈じゃね?」

 敏樹の部屋の窓から、外灯に照らされた歩道に視線を向ける。

「絶対、礼奈だよな? あの野郎、俺の妹に手ぇ出しやがった!」

 俺は部屋を飛び出す敏樹の腕を掴む。

「敏樹、お前の出る幕じゃないよ。これは俺と礼奈の問題だ」

「創……」

「いい加減、シスコンは卒業しろ」

 敏樹の胸をドンッと押すと、敏樹はベッドに尻餅をついた。

「わかったよ創。お前が行け。ビシッとケジメつけてこい」

「おう」

 敏樹の前で冷静を装っていた俺は、ドアを閉めると同時にパニックになり、階段を一気に駆け降りた。

 俺の……
 俺の礼奈に……!

 ロケットのように玄関を飛び出し、猛ダッシュで狼に駆け寄り胸ぐらを掴んだ。

「俺の礼奈に手を出すな!」

「創ちゃん、違うの……」

 仲良く手を繋いで、『違う』って何が違うんだよ。俺は浮気現場をこの目で目撃したんだぞ。

 礼奈の言葉にカーッと頭に血が上った俺は、狼の顔面を一発殴る。すかさず狼が、俺の頬に拳を振り上げた。まさかの反撃だ。

 しかも男にダメージはないが、俺の頬に食い込んだストレートパンチに脳天がクラクラしている。

「痛たたたっ……」

「すみません。暗がりで不意に殴られたので、つい……」

 狼は俺を殴ったくせに、礼儀正しく頭を下げ謝罪した。さらなる反撃を目論んでいた俺は拍子抜けする。

「創ちゃん、どうして乱暴するの。先に殴りかかった創ちゃんが悪い。一橋先輩、大丈夫ですか?」

 礼奈は狼から身を守った俺に感謝を述べるのではなく、狼に優しい言葉をかけた。

「どうしてって、礼奈がコイツと……手を繋いでいたから」

「すみません。俺、南が好きでした。だから最後に南にお願いして、少しだけ手を繋いで貰ったんです」

「最後?」

「南があなたと交際していることを知っていたのに、なかなか諦めることが出来なくて。でも、あなたを一発殴ってスッキリしました」

「はぁ……?」

「『俺の礼奈に手を出すな』なんてかっこいいセリフを、俺も一度言ってみたかったです。今後は南に恋愛感情は持ちません。負けを認めます。でも、あなたが南を傷付けたら、その時は南を奪いに来ます」

「奪う!?」