――フローラ大学附属高校。
 早朝にも拘わらず、運動部はすでに登校し朝練を始めている。

「おはよう。南」

「桐生君……おはよう。早いね」

 下駄箱で偶然桐生君と出会い、戸惑いを隠せない。

「桐生君、話があるの……。ちょっといい?」

「なに?」

 私達は一緒に教室に入る。早朝のため、生徒は誰もいない。私は学生鞄からブルーの封筒を取り出した。

「これ、返します」

「なにこれ?」

「もう誤魔化さないで。今朝、花沢君に会ったんだ。花沢君ね、桐生君と卒業パーティーしてないって。桐生君、私の家をどうやって知ったの」

「それは……。偶然ショップのメンバーズカードの申込書を整理していて、南の名前を見つけたんだ。俺、時間がある時はショップでバイトしてるから」

「アクセサリーショップのメンバーズカードで? それって……個人情報だよ」

「ごめん。南にどうしても会いたくて、メンバーズカードの住所を頼りに探した。偶然、花沢の家を見つけたから、南に嘘をついてしまったんだ」

「桐生君、これ以上そんなことをされたら……迷惑なの」

「もしかして昨日のことを言ってるのか? これ……」

 桐生君はブレザーのポケットから、ピンクのケースを取り出した。

「昨日はお兄さんや彼氏がいて受け取って貰えなかったから。今日こそ受け取ってよ」

「だから……それは……」

 教室のドアが開き、百合野が飛び込んで来た。

「ヤバい、ヤバい、朝練始まってるよ。礼奈、桐生君おはよう。鈴木先輩が辞めちゃうから、てんてこ舞いだよ」

「おはよう、百合野。大変そうだね」

 百合野のお陰で、重苦しい空気が一変した。

 桐生君はピンクのケースを前に差し出したまま、引っ込めることができず固まっている。

「わあ、桐生君、それもしかして? きゃあ嬉しい!」

「「はぁ??」」

「覚えていてくれたんだね。私の誕生日! やだな。二人がサプライズで待ち伏せして、プレゼントだなんて」

 百合野は満面の笑みで、一人で盛り上がっている。

「「誕生日!?」」

「嬉しい! 持つべきものは友達だね。山本百合野、サッカー部で部内恋愛禁止でも、校内恋愛禁止じゃないから。喜んで頂きます。桐生君、ありがとう!」

 今日は百合野の誕生日?
 完全に忘れていた……。

 百合野は桐生君の手から、ピンクのケースを奪い取る。

 こんなオチで……いいのかな?

 桐生君は口をポカンと開けたまま、呆気に取られてる。