教室に戻った私は、スケッチブックと学生鞄を持ち、生徒会室に向かった。

「南、待ってたよ。デッサン出来た?」

「はい、何枚か描いてきました」

 生徒会の執行部が私を優しく迎えてくれた。 私の描いたデッサンを見ながら、みんなで意見を交わす。

 数点のデッサンから、ポスター用と体育祭のパンフレットの表紙用に、二枚のデッサンを選んだ。

「パンフレットの表紙の原画はこのデッサンで、南さんに頼めるかな?」

「はい」

「ポスターは経費削減で手書きにしたい。それと巨大パネルを作りたいんだ。下絵は南さんにしてもらって、色はみんなで塗って、パーツを組み合わせパネルに仕上げる。それで、どう?」

「生徒会長、賛成。南、時間は大丈夫?」

「一橋先輩。任せて下さい」

「よし、任せた」

 笑顔が溢れる生徒会室。
 みんな楽しみながら、体育祭の準備をしている。

 中学校と違って、高校は楽しい。
 生徒が自主的に行動する自由な校風。生徒一人一人の瞳がイキイキしている。

 みんなで力を合わせ、ひとつの作品を作り上げるなんてサイコーだ。

 午後六時過ぎ。
 下絵を何とか書き上げ、明日から色を塗ることになった。

「遅くなったけど、みんな気をつけて帰れよ」

「はい」

 私は一橋先輩と一緒に生徒会室を出た。

「南が手伝ってくれて、本当に助かるよ」

「どういたしまして。あっ、一橋先輩。恋のキューピッド作戦、成功したみたいです」

「恋のキューピッド作戦? 山梨のことか?」

「はい。春ですね。恋の季節です」

 一橋先輩がクスリと笑う。

「恋の季節か。南は癒し系だよね」

「えっ?」

「南といるとホッとするんだ」

「ありがとうございます」

 癒し系でホッとするなんて、すごく嬉しい。
 創ちゃんは私のことを小悪魔だと思ってるけどね。

 一橋先輩がスッと私の手を握った。自然な感じで、私と手を繋いでいる。

 一瞬、何が起きたのかわからなかったけど、創ちゃんとは違う手のひらの感触に、慌てて手を振りほどいた。

「う、わ、わ、わ。ごめんなさい」

「あっ、ごめん。南が可愛かったから……つい」