「年下のくせに、お蝶って呼ぶな」

「お蝶はお蝶だよ」

 山梨先輩の眼差しは、優しい目をしている。 好きな女子を見つめる目だ。

「お蝶は幼なじみだし。マネージャーだし」

「たった今、マネージャーは辞めました!」

「俺のせいで辞めるのか?」

「自分のために辞めたの! 私は一人の女子生徒。もうマネージャーなんかじゃない」

「わかってるよ。男子には見えねぇし」

「ば、ばか。ふざけないで」

「ふざけてないよ。お蝶はずっと女の子だった」

 泣きながら怒ってる鈴木先輩の頭を、山梨先輩がポンポンって優しく叩いた。

 なんか……
 微笑ましい。

 心がぽかぽか温まる。

 私みたいな落ちこぼれでも、恋のキューピッドになれたかな?

 二人の邪魔をしないように、そっとその場を離れた私。

 お邪魔虫は退散だ。

 夕焼け空を見上げると、優しい風が吹いた。
 山梨先輩も鈴木先輩も、夕陽に照らされてオレンジ色に染まっている。
 
 恋っていいな。

 創ちゃんに早く会いたいな。

 自然と頬が緩み、ぽかぽかと幸せな気持ちになった。