……なんで、ここに誉くんが?


あぁ、そうか。ここ、職員室の前だったんだ。


息苦しさに耐えながらおもむろに視線を上げれば、誉くんの両足の間から見えたのは馴染みの職員室の風景で。


なんでこんな時に誉くんと会うんだろうと、自分の運の悪さに腹立たしくなった。



……誉くんに、会いたくなかったのに。



「華恋ちゃん大丈夫!?かれ──」

「名前で呼ばないで、下さい……」

「……っ」



名前で、呼ばないで。



その声で、

大好きなその声で、名前を呼ばないで。



「ゴホッ、ゴホッ、」

「……っ、立川さん!」

「……大丈夫、です」



手を差し伸べてきた誉くんの手から視線を逸らし、拒絶する。


瞬間、胸中に罪悪感が込み上げてきたけど、熱のせいでそれさえもすぐに消え去ってしまった。


けど、誉くんの顔を見たくないという気持ちは消えてくれない。



「大丈夫じゃないだろ」

「……っ、やめ」


不意に落とされたその言葉と共に回された腕。


気付いた時にはもう抱え上げられていて。


それが俗に言う“お姫様抱っこ”だということは虚ろな頭でもすぐに分かった。