キスで結ぶ赤い糸



「失礼しま───っ、」

「……っ、」



……っ、なんで、誉くんがいるの?



油断していた。

この時間はいつも数学教官室にいたから大丈夫だと思ってたのに。


まさか、職員室にいたなんて……。





「かれ───っ、……立川さん」

「失礼しますっ!!」



誉くんの言葉を遮って、職員室に足を踏み入る。


通り過ぎるとき、誉くんの息を呑む声が聞こえたけど知らん振りをした。


それよりも、その前の言葉が脳裏に張り付いて取れない。



“立川さん”



初めて誉くんにそんな風に呼ばれた。



……分かってる。

そう呼ばないといけないってことぐらい分かってる。



けど、頭がついていかない。

私はそんな物分かりの良い子じゃない。


“立川さん”なんて、誉くんに呼ばれたくない……!!