まさか響が学校でそんな事をするなんて思わなくて、踏み出した足が再び制止する。
「いいから黙ってろ。お前、顔色悪い」
そう言って右肩を抱く手に力を込めた響は、有無を言わさず私の肩を抱いたまま歩き出した。
吏架子とみっちゃんに助けを求めようと肩越しに振り返れば、真後ろにいたニ人はニヤついた顔でシッシッと犬を追い払うかのような素振りをして。
……はぁ。
思わず心の中でため息をつく。
どうやら大人しく観念するしかないらしい。
「先生、どうしたのー?」
「あ、あぁ……」
「あ、あの二人じゃない?華恋先輩と響先輩」
「あぁ~、あの二人!先生、あの二人すっごく仲の良いカップルなんだよー」
「………」
「二人ともすっごくモテるんだけど、さすがに相手が美男美女すぎて誰も近付けないんだよねー」
「華恋先輩じゃなかったら響先輩にアタックするのに~」
「………」
「先生?どうしたの?」
「……いや」
全然知らなかった。
誉くんが私たちを見ていたことを。
優しい瞳が哀しみに揺れ動いていたことを、
私は全然知らなかった。


