誉くんに逢うことがないまま時は過ぎ、やってきた始業式の日。

いまだかつて、あの日ほど学校を辞めたいと思ったことないと思う。



『一年生の数学を担当させて頂きます。本庄 誉と申します。宜しくお願い致します』



穏やかで優しい笑顔。

抜群のスタイル。

低音だけど耳障りの良い、甘さを含んだ声。


その存在感は嫌気を差していた女子生徒のみならず、男子生徒までも魅了した。




それからの誉くんの人気は本当に凄かった。

新任にも関わらず学校一有名な先生とも呼ばれるぐらいにまで上り詰め、しまいにはファンクラブまで出来る始末。

今ではすっかり遠い存在の人になってしまった。


毎日毎日女子生徒に囲まれている誉くんだけれど、男子生徒から恨まれることはなく、むしろ教え方が上手だと敬われているらしい。



誉くんが好かれて嬉しいけれど、正直、寂しいと思うことの方が大きかった。


ほんの数週間前まではこの学校の誰よりも誉くんの近くにいたのに、今は一番遠い私。


それが心の中でいつまでも残って、気付けば誉くんの姿を追っていた。