「………っ、」


距離にして15センチほど。


誉くんの黒髪がすぐ目の前でさらりと揺れ、黒曜石のような瞳が真っ直ぐ私の瞳だけを見据えている。


未だ嘗てないほど近い場所にある誉くんの端整な顔に、心臓がドキドキしすぎて今にも爆発しそうだった。



誉くんからすればきっとなんてないことなんだろうけど、私からすればとんでもない状況な訳で。


もう、二時間かけて覚えた公式も単語も、全て忘れてしまうぐらい緊張感がマックスに達していた。



……どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。

最初、なんて言えばいいんだっけ?



昨夜、あれだけ予行練習した筈なのに、“どうしよう”という言葉だけが頭の中でグルグルと渦巻いて、肝心の言葉がいつまで経っても口から出てこない。


こうしている間にも誉くんはどうしたの?と不思議そうな表情で私を見てるし。


心を決めるしか、ないのかな。



「あ、の……」

「うん?」



聞き取れないほど小さな声にちゃんと返事してくれる誉くん。


それだけで胸がきゅんと切なく疼いて、抑えていた想いがぶわっと一気に溢れ出していく。



「誉、くん」

「……華恋ちゃん?」



そうだ。

今言わなきゃ誉くんと一緒にいられない。


私は、誉くんに“意識”して欲しいんだ。



だから───



「誉くん、私……」



誉くんにちゃんと伝える。



「誉くんのことが……ずっと前から好きでした」



誉くんのことが大好きなんだって。