エマは奥の部屋の窓辺にいて、外を眺めていた。暖かい春の風が長い亜麻色の髪をなびかせている。
真っ直ぐに見つめる先は、城壁越しに見える海。深い青の上に白い波が現れては消える。
僕は部屋の入り口で立ち止まり、彼女の横顔を見つめた。
今、エマは何を思っているのだろう。切なさを帯びた遠い眼差しは、誰を見つめているのだろう。
僕は彼女のそばに近付いた。そっと、後ろから優しく抱き締める。
「ただいま」
「シエル」
振り返ったエマの額に軽くキスを落とす。婚約時には彼女に屈んでもらったけれど、もうその必要は無い。
「おかえりなさい。そして、お疲れ様」
微笑みあい、一緒に海を見つめる。
僕は、大きくなったお腹に当てられた彼女の手に自分の手を重ねた。彼女の右手には、今でも夕陽色の指輪がはめられている。
「順調そう?」
「ええ。色々不安だったんだけど、心配しすぎないようにって言われたわ。あと、安産のために歩きなさいって」
「そうか」



