樋井は銃を取り出し、スコープを嵌めてから、前方にある的をまっすぐに見据える。


 そして正眼に構え、パンパンパンと三発連射した。


 いずれもほぼ狂いなく、的の中央に当たる。


「静止した的には、ちゃんと当たってるね。動体視力はどれぐらいか分からないけどな」


「課長も射撃の腕は鈍っておられないじゃないですか?」


「ああ、そうみたいだね。……でも、トラウマがあるんだよな。この署の刑事課に着任した頃のね」


 樋井は確か、この署の刑事課に課長として来た頃、ある事件で犯人を撃ち損ねたことがある。


 今から六年前の二〇〇八年に起こった<新宿ビル不法占拠事件>で、立てこもり犯だった中居善司(ぜんじ)を撃つため発射した銃弾が、たまたま人質の安東孝志(たかし)に当たり、安東は即死した。


 直後、中居は突入したSATの隊員により、立てこもりの現行犯で身柄を確保されたが、死亡した安東は警察病院に運ばれた時はすでに死亡していたのである。


 安東の遺族は樋井を恨み続けているようだ。


 誤って撃ったことで、人質が死んだのである。