シエナはセレに同じような思いをさせたくなかった。

「セレ様。あなたには、こんな思いを味わって欲しく無いのです。

430年もの間にどれだけの別れを経験するのでしょう?

普通の人の何倍の辛さを乗り越えればいいのでしょう?

だから私はあなたの心を封じた方がいいとヴァシュロークに言ったのです。

しかもあなたは冬眠しない方を選んだ。…本当にいいのですか?」


静かにセレは答えた。

「俺を、ただのフィズの容れ物にはしたくない、と。」

「?」

「心が無ければ悲しみも感じないが、幸せも感じない。『幸せになって欲しい』とヴァッシュ様の手紙にあったんだ。」

「……」

「確かに辛い事は沢山あるだろうし、最後に幸せだったと思えるかどうかは賭けみたいなものだ。

でも、おそらく後悔はしないと思う。

…それから…これを…」

折り畳まれた便箋を1枚、シエナに渡した。

「これは?」

「ヴァッシュ様の封筒に入っていた。」

シエナは開いてみた。


「追伸

   シエナには感謝している。」


…それだけだった…

「ヴァシュローク…」

シエナの目に涙が溢れた。