森を通り抜ける風に全身の細胞で触れてみる。

 …花、土、樹木、生き物の香り
  
  絶え間なく変化する湿気、温度、
  速度…

  風の生命がそのまま感じられる…


この風は遥かな北の海で生まれた風なのだと分かる。高い山脈を超え、草原を渡り、いくつもの町を通ってこの森に着いた。

そして、森の奥へと吹きすぎてゆく。

…何かが風を遮っている。

 何だろう?
 石…?
 壁…?
 
 …建物だ…

 懐かしい感覚… これだ…

「わかった。こっちに離宮がある。」

惑わされているのは、どうやら視覚だけのようだ。

「離宮?あなたの?」

「ああ。でも誰か居るな。多分魔法使いだ。俺の知っている者ではないみたいだけど…邪悪なものは感じないから大丈夫だと思う。」

「誰かしら…? 」

安心はできなかったが、ピアリはセレについて行くしかなかった。