急ぐ旅ではない。ピアリにももう少し養生させた方がいいだろう。

そう考えてセレは医者の勧めを受け入れる事にした。


そこに

「セレ、大変だ!」

エルグが食料品の買い出しから戻って来た。

「何かあったのか?」

「また盗みなんだよ!同じ手口で!」

「何だって!」


『水鏡』でまた物が盗まれたと言う。


「ノーラさんじゃないわ!」

「うん、絶対に違う!」

ピアリとルルグも否定した。

「本当に『水鏡』か?」

「みんなはそう思ってるぜ。」

「魔法は感じなかったな…」

近くで魔法が使われれば、セレにわからない筈は無い。

見張ってみる事にした。

セレはその付近で1番高い木に登り、てっぺんに立って下を見下ろす。

かなり広範囲に見渡せた。

「こんな所から見られてるなんて誰も思わないだろう。」

きっと尻尾を出す、と信じて待った。

3時間程経った頃。

1羽のカラスが民家の窓にスイッと飛び込んだ。

くちばしに光る物をくわえて出て来た。

「あいつか?!」

木から跳び降りてカラスを追った。

カラスごときに置いてけぼりを喰うセレではない。

見失う事無く、一定の距離を保ってついて行った。