「こいつが犯人か!僕の結婚指輪を返せ!」

当然、怒った。…が、

「…あれ?」

女性の顔を見て、言葉が止まった。

「ノーラ様?…領主様のお嬢さん、ですよね?」

ドレスの女性は座ったまま、手で後ずさりした。

「足が悪いのか?」

医者もセレも気がついた。

「…そうよ…だから…私は…」

女性は少しずつ話し始めた。

2年程前に落馬して、腰を強く打ったのだと言う。

「馬に乗るのが大好きだったのです。」

活発な女性の様だ。

「王室付のお医者様に特別に診てもらったのですが…」

『腰の骨が潰れてしまっている。神経も切断されている。』

と言われた。治る見込みは無い、ということだ。

「…気の毒だとは思うけど、だからといってあなたのした事は許される事ではない。」

医者の怒りは収まっていなかった。

「政府の役人に引き渡す!」

「…今すぐでなくてもいいでしょう。もう少し話させて下さい。彼女は逃げませんよ。」

セレが制止した。

「…患者を待たせてるからな。それが終わってからにしよう。」

医者は仕事に戻った。