雨風ささやく丘で

10月24日、午前8時。



自然と目を覚ました私は、壁時計で時間を確認すると朝の8時だった。それと同時に結子の待ち合わせ時間を思い出し、慌ててベッドを飛び降りた。
早い朝食を終え、身支度もしたところ45分ぐらいかかった。
私はバッグを持ってコンビニへ向かった。

先にコンビニに着き、腕時計を見ると待ち合わせ時間までまだ5分少々あった。結子より先に着いた。
「なーつきー!」
すると遠くから結子の声が聞こえ、声の発信源を見ると走ってくる結子が見えた。
「おー!結子、おはよ」
「おはよ。じゃ、さっそく行きましょう」
そう言うと結子は無言で私の腕を取り、引っ張るように歩いていく。
「ちょ、ちょ、先にどこに行くのか教えてちょうだいよ!」
「近いから。着いたら教える!」


この近辺は自分のアパートから3丁目ぐらい離れた場所、確かに遠くはない。
しかしこの場所はどこかで見たような…
見たというより、間違っていなければコンビニの雑誌で見た占い師がある場所だ。

まさかと思いつつ、黙って結子に連れて行かれた結果、着いたのはやはりあの占い師だった。
「結子もしかして」
「そうそう、そのもしかして」
ムッフーンと結子はニッコリ笑った。

看板には麗水ママ、恋占い、悩み相談、魔術、その他。と書いてあった。
「結子ったら!」
「ここまで来たんだから引き返せない!いこいこ」

仕方なく私は建物の中に入る。中は薄暗く、至る所にロウソクやまじないに使うものが埋め尽くすようにあった。本音を言えばここは不気味だ。結子も私も互いにしがみついて奥へ進んでいく。

その先にいたのは若い女性の助手。無言で導く様にカーテンを開け、私たちは中へ入った。
「いらっしゃい、どうぞお座り」
丸いテーブルに大きな水晶玉。実際に見たのは今回が初めてだった。

そして占い師は40代ぐらいの女性。本当に占い師なのだろうかと内心疑いつつ、私は椅子に座った。
「恋占いが初回だけ…無料なのですよ…ね?」
結子は不安そうに言葉を区切ってそうきいた。結子はやはりそれに釣られてここに来たのか。
「ええ、そうですよ。では今後の恋愛で何を知りたいのですか?」
「私は理想の人と出会えることはあるのでしょうか?」
それを聞いた占い師は両手を水晶の上にかざし、円を描く動きをし始めた。目を閉じ、何か集中している様子。これがただの演技でなければいいのだが。

そうすること数分間。占い師は答えを得たのか、閉じていた目を開ける。
「だめね…」
「え、な、何がですか?」
結子ははっとしたように聞いた。
「今しばらくはあなたの理想の男性は来ないってこと」
占い師はキッパリと即答した。
「えー...そんなぁ」
結子は思いもしなかった答えに肩を落とした。
「理想が高すぎるわね。もう少しハードルを下げればいいと思うわよ。それに恋愛運を上げる御札を買っていけばいいわね」
「は、はい」
「今回はこれだけが悩みだったのかい?」
「そうです。夏希、じゃあ行こうかっ?」
「うん」
椅子から立ち上がり、帰ろうとしたその時だった。
「待ちなさい!」
「?」
「?」
占い師は少し気の立った声でそう呼び止めた。
結局は料金か何かを請求するんだろうと私は思った。
「そこのあなた」
占い師は私に指を指して指名した。
一応自分なのかと確認するように、私は自分を指差した。占い師はそう、と首を振る。
「ちょ、夏希…」
「あなたついてるわよ」
その一言に私は言葉を無くした。この時占い師が言った”ついてる”の意味をちゃんと分かっている。
怖くなった一心で私はガタガタ震えながら建物を駆け出してしまった。


「夏希…ついてるってどういう意味よ」
結子は先ほど占い師にすすめられて買った御札を見ながら横で聞いた。
「知らない!思い出したくない…どうせあの人もペテン師なのよ。私占いなんか信じないから」
私はそう茶化した。誰があの占い師は本物だって証明出来る?
「ごめん…無理やり連れてきたのも私だし」
結子は俯いて謝った。
「いいの。気にしないで結子。どうせまた明日忘れてるんだから」
「だねっ」

昼時間が近かったことから、結子と一緒に洋風レストランで食事をした。
結子が占い師の話を極力避けていたことは伝ってきた。いつもはお調子者だがさすがに今日は反省している。お詫びにデザートまでおごってもらった。

あいにく少し疲れを感じた為、私はレストランで食べた後はアパートに帰ることにした。
結子はまだ気を重くしている。

「結子、今日はたまた疲れが溜まってたのよ。結子のせいじゃないから気を落とさないで?」
「夏希がそう言うならいいけど…じゃあまた明日ね。今日はゆっくり休んでね」
「うん、また明日」