午前9時33分
今日はたまたま書類が少なかったお陰で、パソコン作業ではなく当分掃除当番に回された。
「もー私掃除やだぁ」
結子は子供の様に文句を言いながらも窓ふきを続けた。
「いいじゃない。私はパソコン作業より掃除の方が好きよ。きれいになるし」
「掃除は自分のアパートで十分じゃない」
「文句言うのやめてよ結子。オバサンみたい」
私は結子に軽く鉄肘した。
「オバサンは夏希よ、掃除なんか好きだから」
「おいおい、そこの二人」
まるでちょっとしたおふざけでさえ許さないかの様に、そこにいたのは石園だった。
私も結子も焦って姿勢を張る。
「は、はい」
「接客ちょっと頼む」
「分かりました」
今日はどうやら他の会社と交渉会議を行う予定だ。テーブルに飲料などを置いていると、デンライ電設会社という札が置かれていたことに気づいた。
「デンライ電設会社…これ雄人の会社なんだけど」
「え、うそ」
「ほんとほんと。今日来るのかな。雄人交渉の補助人みたいな仕事してたから」
「頑張って」
結子は応援するように手をぐうに握った。
「何を頑張るの結子。私たちは別れてるんだって」
私は呆れて言った。
「夏希?」
「?」
ドアの方を振り向くとそこにいたのはスーツ姿の雄人だった。
「お邪魔しましたぁ」
「あ、結子ったら!」
結子はせっせとドアから抜けるとどこかへ行ってしまった。
「まさか今日会えると思ってなかった。鍵は持ってこれなかった、ごめん」
「いいの、日曜日持ってくるって言ったんだから。今日まだ土曜だし」
私はまた作業を再開させて言った。
「にしても…何で俺が夏希のアパートなんかに行ったって聞いた?」
「な、何でもない」
あんな恥ずかしい思いしたことを、わざわざ雄人にいう必要はないと思い、私は誤魔化そうとした。
「夏希はだいたい嘘つくの下手だってこと知ってる。なんかあっただろ」
雄人はとてもからかっていると思えないぐらい、シビアな声でもう一度聞いた。こうなると雄人を誤魔化すことは出来ない。私は誤魔化すのを諦めた様に息を吐いた。
「パソコンの調子がおかしくなってから私神経質になっちゃって。それで馬鹿みたいに幽霊がどうのこうのって関連付けて妄想が働いたせいか、夜アパートで影みたの。だからもしかしたら雄人かな?って思って連絡したの。私以外に合鍵持ってるの雄人だけだから」
それを聞いた雄人は何故か一瞬静かになった。まるで悪戯をした子供が親に隠そうとしているかのように。
「本当に見たのか?」
「きっとストレスが溜まってたのよ。その時石鹸が目に入ってたっていうのもあるし。でも何で?」
さっきから変な雰囲気の雄人に、どうしてそんなに気になるのかを聞いてみた。
「あ、いや何でもない」
「おかしい」
私は雄人を睨みつけて言った。
「磯崎さんそろそろ始まるから君はもう降りていいよ」
話に割って入った先輩がそう言った。
「はい。雄人、じゃあ日曜日の夕方に来て」
「そうする」
私は何故だか雄人に対して可哀想な気持ちを覚えた。理由は自分でも説明できない。
一度浮気された相手だというのに。
結局一日はすっと落ち着いた感じの日だった。しかしこういうふうに良いことがあると必ず何か起こる。そんな予感が胸の奥でする。
午後12時08分
食堂室で結子が来るのを待っていると、上司たちに続いて廊下を過ぎていく雄人が見えた。ふと目が合うと雄人は小さく手を振ってバイバイをした。
私も一応同じく手を振った。
「あらあら?仲良ししたのぉ夏希?」
後ろから結子がそう言うとテーブルに座る。
「仲良しって…前からもう憎んでないっ」
「いいなぁ私も早く彼氏出来ないかな」
結子は頬杖着いて呟いた。
「やれやれ」
今日はたまたま書類が少なかったお陰で、パソコン作業ではなく当分掃除当番に回された。
「もー私掃除やだぁ」
結子は子供の様に文句を言いながらも窓ふきを続けた。
「いいじゃない。私はパソコン作業より掃除の方が好きよ。きれいになるし」
「掃除は自分のアパートで十分じゃない」
「文句言うのやめてよ結子。オバサンみたい」
私は結子に軽く鉄肘した。
「オバサンは夏希よ、掃除なんか好きだから」
「おいおい、そこの二人」
まるでちょっとしたおふざけでさえ許さないかの様に、そこにいたのは石園だった。
私も結子も焦って姿勢を張る。
「は、はい」
「接客ちょっと頼む」
「分かりました」
今日はどうやら他の会社と交渉会議を行う予定だ。テーブルに飲料などを置いていると、デンライ電設会社という札が置かれていたことに気づいた。
「デンライ電設会社…これ雄人の会社なんだけど」
「え、うそ」
「ほんとほんと。今日来るのかな。雄人交渉の補助人みたいな仕事してたから」
「頑張って」
結子は応援するように手をぐうに握った。
「何を頑張るの結子。私たちは別れてるんだって」
私は呆れて言った。
「夏希?」
「?」
ドアの方を振り向くとそこにいたのはスーツ姿の雄人だった。
「お邪魔しましたぁ」
「あ、結子ったら!」
結子はせっせとドアから抜けるとどこかへ行ってしまった。
「まさか今日会えると思ってなかった。鍵は持ってこれなかった、ごめん」
「いいの、日曜日持ってくるって言ったんだから。今日まだ土曜だし」
私はまた作業を再開させて言った。
「にしても…何で俺が夏希のアパートなんかに行ったって聞いた?」
「な、何でもない」
あんな恥ずかしい思いしたことを、わざわざ雄人にいう必要はないと思い、私は誤魔化そうとした。
「夏希はだいたい嘘つくの下手だってこと知ってる。なんかあっただろ」
雄人はとてもからかっていると思えないぐらい、シビアな声でもう一度聞いた。こうなると雄人を誤魔化すことは出来ない。私は誤魔化すのを諦めた様に息を吐いた。
「パソコンの調子がおかしくなってから私神経質になっちゃって。それで馬鹿みたいに幽霊がどうのこうのって関連付けて妄想が働いたせいか、夜アパートで影みたの。だからもしかしたら雄人かな?って思って連絡したの。私以外に合鍵持ってるの雄人だけだから」
それを聞いた雄人は何故か一瞬静かになった。まるで悪戯をした子供が親に隠そうとしているかのように。
「本当に見たのか?」
「きっとストレスが溜まってたのよ。その時石鹸が目に入ってたっていうのもあるし。でも何で?」
さっきから変な雰囲気の雄人に、どうしてそんなに気になるのかを聞いてみた。
「あ、いや何でもない」
「おかしい」
私は雄人を睨みつけて言った。
「磯崎さんそろそろ始まるから君はもう降りていいよ」
話に割って入った先輩がそう言った。
「はい。雄人、じゃあ日曜日の夕方に来て」
「そうする」
私は何故だか雄人に対して可哀想な気持ちを覚えた。理由は自分でも説明できない。
一度浮気された相手だというのに。
結局一日はすっと落ち着いた感じの日だった。しかしこういうふうに良いことがあると必ず何か起こる。そんな予感が胸の奥でする。
午後12時08分
食堂室で結子が来るのを待っていると、上司たちに続いて廊下を過ぎていく雄人が見えた。ふと目が合うと雄人は小さく手を振ってバイバイをした。
私も一応同じく手を振った。
「あらあら?仲良ししたのぉ夏希?」
後ろから結子がそう言うとテーブルに座る。
「仲良しって…前からもう憎んでないっ」
「いいなぁ私も早く彼氏出来ないかな」
結子は頬杖着いて呟いた。
「やれやれ」

