雨風ささやく丘で

１０月２２日、午前１０時５４分


慌てて急に店を出た分、外にいた歩行者達は驚いた顔をして私を見ていた。
その視線がプレッシャーとなって私はそこにいることに苦痛を感じた。私は率直にそこから逃げるように歩き出した。。行く先はどこへでもいい。とにかくここにはいたくない。

一番近くに見つけたガラ空きのベンチに私は座り込んだ。
深く息を吐き、落ち着くためにしばらく何も考えないでじっとしていた。
そろそろ休暇が必要なのだろうか…


こうしていて何分経ったのか分からないが、頭を冷静に戻すには十分だったようだ。
丁度私をそこから追い払うかのように大きく冷たい雨粒が一滴頭に落ちた。そしてぽつぽつと他の所にも落ち始め、雨は強くなって行った。
朝出た時の晴れはどこへいってしまったのやら。まだ真昼だというのに空は薄暗い灰色だ。

私は傘を持っていなかったため手で頭を覆い、近くの駅まで目指そうとした。
何千人といった人たちが雨宿りする場所を求めて小走りしている。その内何人かにぶつかりそうになったりもした。

時々足場に注意を向けて歩けば見えるのは当然人の足。すると一瞬白い素足が見えた。
そして人混みに消えた。

……………………………

見たものに思わず私はその場で足を止めた。
こんな町中で素足で歩く人はさすがにいないだろう。
とすると私は今何を見た？

そう頭の中でみたものを整理しようとしていたところ、左肩に鈍い衝撃が走った。それと同時に携帯独特の落下音が。
私がここで止まっていたせいで誰かがぶつかってしまったようだ。
「おいそこで何止まってんだ？？邪魔だ！」
コートを着た中年の男性が鋭い怒りの視線を私に向けると、ブツブツ言いながらもそのままどこかへ消えていった。
「すみません…」
私はかすれた声で常識通り謝った。聞いていなかっただろうが。

自分の携帯が心配になり、私は地面をみると確かにそこには私の携帯が開いたまま落ちていた。
ひとまず携帯を拾うと続いて駅へ向かった。




駅に着くとそこには私と同様、雨が過ぎることを待っていた人たちで一杯だった。
携帯はびしょ濡れになっていたが防水のため、水でのことでは問題ない。
問題は落ちた時の衝撃で画面にひびが入ってしまったことだった。

一日に次々と降り掛かる不運な出来事に対し私は肩を落とし、一息吐いた。
天罰なのだろうかと疑ってしまう程運が悪すぎる。
私は心の中で思い当たる節を探ってみたけれど、記憶の限りは何もなかった。一週間前に間違えてゴミを出したまま、放置したことを除けば。