愛を知らないあなたに

「鬼のとこに行くのみ、だよね。」


なんとかなる・・・っていうか、なるようにしかならないわけだし。


もしかしたら鬼は、美味しく食べるために、あたしを太らせるかもしれない。


それならば、あたしはいっぱい食べ物が食べられるってことだ。



最後にお腹いっぱい食べられる。

それってけっこう、幸福なことだよね?



「うん。いいかも!」


『いつだって前向きに』

それが浅葱さんの心得だったし、あたしは見事にそれを習得した。


だから、大丈夫!






あたしは歩きながら空を見上げた。




月のない夜だった。


ぽかりと吸い込まれてしまいそうな、黒い空。


闇が支配する世界は、驚くほど静かだった。




風も、そんなに吹いてないみたい。


静か過ぎて怖いと思うくらいの静けさ。




あたしは、明かりのない山道を、必死に歩いた。


暗くてよく見えないから、よく転びそうになる。

下駄ではなく、草履を履いてきて正解だった・・・。