こんこんっと優哉さんの部屋をノックする。






 中からはーいという声が聞こえて安心。でも不安。





 病室に入って私はいつもの席に腰を下ろした。


 そのときにかすかに感じたぬくもり。




 ………あの人、この席に座ったの?










「朋ちゃん……」







 優哉さんが此方を向いたときに初めて気づいた。


 頬にある、真っ赤なキスマーク。



 今の人に、されたの?


 気付いてないの?

 それとも、私に見せつけているの?







 考え過ぎでパンクしそうな私に優哉さんが顔を近づける。


 本当に、本当に少しだけさっきのすれ違った人と同じ甘い香りがした。










「ぃやっ!!」











 思わず突き飛ばした私に優哉さんは悲しそうに微笑んだ。












「ごめん、なさい。今日はもう帰る……」













 それだけ言って病室を飛び出した。



 走っている途中、頬を触るとしめっていた。


 ばれてないといいな。泣いてるの。





 1階のロビーについて、私を心配そうに見つめる憐ちゃんの姿を見て涙が溢れ出た。