「良い子たいね……」


追い討ちをかけるように、砂糖菓子よりも甘い声で囁いた泰ちゃんは、私の左の頬とこめかみの間の箇所に、鳥が餌を啄むような口づけを落とす。


自身に何が起きたか、機能の停止した頭ではちっとも分からなくて。


顔が離れて数秒。先に我に帰ったのは泰ちゃんで、みるみる顔を真っ赤に染めて、私からじりじり、と後ずさっていく。


「ごっ……ごめっ!く、癖で!よ、4歳ん妹に、褒める時良くするっちゃんね!うわぁ、何しよっちゃろっ!」


「いっ……妹!うん、そっか、癖ならしょんなかよね!は、はは!」


とろけていた筈の脳みそが途端に固まって、起きた現実にお互いに赤面。


「泰ちゃん!私家もう直ぐそこやし、ここで良かばい!あんま部活遅なるとあれやろ?ケイ先輩とかにからかわるーけん大変ばい!」


「お、う、うん!そやねぇ!……また、明日なっ」


大きな体で腕を振りかぶって走り去る泰ちゃんの後ろ姿を見つめて、へたりそうになるのを何とか堪える。


落ち着いたらまたぐるぐる考えちゃうんだろうけど、今は……何も考えられないよ。