【完】切ないよ、仇野君

「……あーあ、椿んこつ好きになっとったら、こぎゃん苦しまんで済んだとやろうか」


器用で、人との距離の取り方を知っている椿だったら、皆に優しい泰ちゃんより、悩まずに済んだかもしれない。


「お?乗り換えなら大歓迎。小鳥遊のここ、空いてますよ?」


「ははっ!そいに飛び込んだら、椿ファンにボコボコにさるるけん止めとくわ」


椿が踏み込んで欲しくないところを踏んでこないから、私もあまり気負いしないで椿には接することが出来る。


枕の傍らに置いてある椿の手は、毎日趣味でお菓子作りをしているせいか、いつでも甘い香りがする。


その香りに包まれていると、不思議と、自分の体温で温まった掛け布団に、意識を委ねて夢の世界へ引き込まれてしまう。


「……わりと本気なんだけどなぁ」


椿が何かを呟いた声は良く聞こえず、その甘いお菓子の香りを漂わせた手で優しく額から鼻までを撫でられて、私は魔法にかけられたように、眠りへと落ちた。