【完】切ないよ、仇野君

「ここで椿やったら『歩ん為に行かん方がいい、泣いとるとこなんか見られたくなかろ』とか、器用なこつ言うかんしれんね。ばってん、俺は違う。自分勝手な我儘や。ちーに歩ん傍に行って欲しくなかだけたい」


止めてよ。決心が揺らぐ。君への好きが爆発しそう。


泣いてる歩君の傍に歩君の為に行かない方がいいって、嘘でもそう言われたかった。


さっきの試合のこと、歩君のこと、そして、後ろから抱き締めてくる泰ちゃんへの想いが、私を切なくさせて、これから決勝戦なのに涙が溢れて来てしまう。


「ちー、俺は不器用じゃ。椿とか歩みたいに、ちーば笑かすことも上手く出来ん。でも、それなりに、ちーんこつ、俺の中の、ちーんこつば色々考えたつよ。なんで独占したいち思うんやろ、触れたいんやろって」


その切なさに拍車をかけるように、泰ちゃんあ甘い静かな声が私の鼓膜と涙腺を緩やかにノックする。


「なんに、ちーは昨日から、ちょっと俺との距離ば離したやん。嫌われたと思うた。嫌われるようなこつ、何度かしたけん。……正直、バスケよか、皆や歩に目が向いとうちーんこって、頭の中はいっぱいや。こんままじゃ決勝戦で戦力になれん。それは、死ぬごつ辛か」


やっぱり、泰ちゃんが放つ言葉は私の封印なんて意図も簡単に紐解いていってしまう。


せっかく上手く『マネージャー』出来てたのに、私の頭の中は途端に泰ちゃんでいっぱいになってしまう。


「ちー、ホントはこの夏が終わるまで、俺が君へ気付いたこつ、言わんどこうって思うとったとばってん、決勝戦、勝ったら聞いてくれん?……うんって言うてくれるなら、俺、気持ち全部バスケに注ぎ込める気がすっとよ」


器用に見えて不器用で、周りのことばかり考えているようで、実は我儘。


もしかしたら、自惚れていて実は泰ちゃんは、私のことを『妹みたいに想ってる』なんて言ってくるかもしれないけど、それでも。


切なくて止まらない涙を流したまま『うん』と小さく答えると、泰ちゃんはようやく私を閉じこめていた腕の力を解いた。