【完】切ないよ、仇野君

その後ろから、もの凄いスピードで行雲キャプテンが追いかけ、ゴール下には先回りしていた泰ちゃんがつく。


インサイド、アウトサイド共に他の皆がパスコースを塞ぎ、リバウンドの良い位置についた泰ちゃんと追いついた行雲キャプテンと相手との二対一の構図が出来上がる。


肥後学のキャプテンさんが、力業で飛び上がり、それにあわせて行雲キャプテンも飛び上がる。


けれど、それは行雲キャプテンを誘い出すフェイク。彼はボールを繊細なストロークで去なすと、下からふわりとゴールに投げたのだ。


柔らかい、非の打ち所の無いダブルクラッチに、会場全体が息をのむ。


……けど、彼に支配された空気は、きっと主役にはなれない君が、動かしてくれるんだよね。


「た…………っ!泰ちゃん!」


君の名を、力の限り叫んだ。ざわざわと煩いフロアにそれが響き渡るくらいの大きな声だった。

空中から着地に入る両校のキャプテン達とは裏腹に、次第にその大きな体が浮上していく。


泰ちゃんの、血管が浮き上がった、夏の日差しで少し焦げた健康的な腕が、ゴールへ向かっていたボールを、しっかりと捕らえる。


バシィ、とボールの表皮に掌が当たる音が確かに聞こえて、のまれた時間が動き出す。


肥後学に流れを与えない、主役にはなれない君の、ゴール下の番人の役割を果たすプレイ。


それがこの試合の、いや、この世界の中で小さな小さなとりとめの無いプレイだったとしても、私には、君しか見えていなかったよ、泰ちゃん。