【完】切ないよ、仇野君

こちらも相手もどんどんコートの中に入っていく中、泰ちゃんがくるりとこちらを振り返る。


気のせいじゃなくて、泰ちゃんは、確実にまっすぐと私だけを見つめていた。


彼が何を思って私を見つめているか、はっきり理由を答えることはとても難しいことだけど、私は何を言いたいのか分かったような、そんな気持ちでいっぱいになった。


泰ちゃんの眼差しは心臓をぎゅうっと窄ませ、つま先から頭のてっぺんまでドクン、とポンプして、私の体を熱くし、またぎゅうっと窄ませる。


見つめ合っていた間はきっと数秒、瞬き一回分程だったのに、その数秒は私の全てを停止させ、長く、私を捕らえているような感覚をもたらした。


意識が現実に戻った時には体中が震えるような大きなブザーが鳴り響き、2メートルを裕に超えた大きな泰ちゃんの手が、ボールを椿の方へと弾いたところだった。