「ご、ごめんなさい。私ったら……」
「あはは、私こそすまないね」
先生の目は、何処か遠くを見ているように感じた。
一体、何があったんだろう。
この目は、いつかの桐生くんの目にそっくりだ。
同じ目。
「沢城さんは、奏汰のことが好きなのかい?」
「え…………あっ」
なんでわかっちゃうのでしょう。
しかも、よりによって桐生くんのお父さんにだ。
そしてある不安に襲われる。
私の後ろにあるドアの向こう。
そこに居るであろう桐生くんのこと。
もし今のが桐生くんに聞こえていたらどうしよう。
「あぁ、大丈夫だよ。ここは防音になっているから外には聞こえないよ」
オドオドと落ち着かない私を見て気づいたんだろう。
先生の言葉を聞いてホッとする。
よくよく考えてみれば、個人情報が行き交う診察室の会話が外に漏れていたら困るよね。



