二日前。
俺と妻との【結婚記念日】だった。


忘れていたわけじゃない。


昨年末、急遽昇格辞令が出されて
引き継ぎやら挨拶回りやらの、接待続きで。

帰りが23時を過ぎる事が当たり前の様な
そんな毎日を送っていた。

やはりと言うべきか…
昨夜も定時での帰宅は叶わなくて。


俺の昇格を自分事の様に喜んだ、君。
帰りが遅くなってしまう事に
申し訳なさを感じていた、俺。


結婚記念日の当日。
日付が変わってしまってから帰宅した時も、
君は笑顔で俺を出迎えた。

いつもの様に
『お帰りなさい。お疲れ様。』と。


リビングに入りダイニングテーブルを見ると
一輪挿しの花瓶に、一輪の真っ赤なバラと
少しのかすみ草が生けられてあり、
冷えきってしまっているだろう手の込んだ料理には、ラップがかけられてあった。

君は、どんな気持ちで俺の帰りを待っていたのだろうかなんて、考えずとも伝わってきて。

ただ、ただ、


「すまない…。」


の言葉だけしか言えなかった。