その年は、私の高校で、28年ぶりに野球が県のベスト4まで勝ち残っていた。

全校応援で、何度も球場に足を運んだっけ。


日焼け対策をして、タオルを揺らしながら応援をしたね。

すっごく、青春、って感じだった。


その合間の授業で、川上先生も野球の話に夢中になっていた。



「俺、前にいた高校で何度か甲子園に引率したことあるんだぞ。」



自慢気にそんなことを話していた。

そして、授業が終わると、川上先生は私を呼んだ。



「横内、お前のお母さん、A高に勤めてるだろ。」


「へ?……な、何で知ってるんですか?」


「知ってるさ。」



そう言って笑う先生。

何で、って思いながらも、嬉しい気持ちが止まらなかったよ。

私のこと、ひとつひとつ知っていく先生に。



「A高って、去年甲子園行ったよなあ。」


「そうですね!」


「じゃあ、お前のお母さんも引率したのか?」


「いえ、うちの母は行かなかったみたいですよ。」


「えー、なんだ。そうか。」



久しぶりに、先生と廊下を並んで歩いた。

そして、先生と別れる曲がり角で、間違えて私についてきてしまった先生が、可愛くて。

愛おしくて、どうしようもなかった。



それに、先生を見ていたら。

偶然すれ違った野球部のピッチャーの肩を抱いて。


「頑張れ!期待してるぞ!」


なんて言っていて。

羨ましくなった。


私も、男の子だったらよかったのに。

そしたら、あんなふうに肩を抱いてもらえたかも―――


そんなことを、考えてしまった。