先生に近づくなと言われたくせに、次の日に先生の優しさに触れてしまうという皮肉。
あの放課後のことは、一生忘れない。
優しい優しい先生。
昔話をしてくれる先生。
次の日は、朝から雨が降っていた。
傘を持っていなくて、でも駅から高校まで、15分ほど歩かなくちゃいけなくて。
私は、カバンで頭を覆いながら、必死に走った。
学校につくと、制服がびしょびしょで。
白いブラウスが腕に張り付いている。
それに、もう秋だからかなり寒い。
悲惨だ―――
だけど、私は倉木先生に渡すものがあったから。
先生を待っていなければならなかった。
職員会議が始まる前に、どうしても倉木先生をつかまえたくて。
でも、職員室を覗いても、まだ来ていないみたいだったから、寒い廊下でずっと待っていた。
すると、エレベーターが4階から下りてきて。
ドアが開くと、川上先生が現れた。
タイミングがいいと言うべきか、悪いと言うべきか。
「なにお前、どうしたの?」
「傘忘れて。急に雨降ってきて。びしょびしょ。」
うまく日本語を話せない私を、先生は笑う。
「ばかだなー。」
「寒い。」
「誰待ってるの?」
「倉木先生。」
「中で待ってればいいじゃん。」
「え、でも……。」
「ほら、いいんだよ。」
そう言って、職員室のドアを開けて、振り返る先生。
「イヤ?」
そう言ったときの先生の顔に、一瞬見惚れて。
そして、すぐにぶんぶんと首を横に振りながら、職員室に入った。
ふっと笑って、行ってしまう先生。
よかった。
職員室の中、すごく温かい。
それに、コーヒーのいい匂いがする。
「あ、はるちゃん、どうしたの?」
「倉木先生、この間の原稿、……あ、濡れちゃったかな。」
私がカバンから出した、短歌の原稿は、端の方が濡れてぶよぶよになっていた。
「すみません、書き直してきます。」
「いいのいいの。私がどうせチェックするから。」
そう言って笑う倉木先生。
「雨に降られた、って感じだね。」
「ははは。そうなんですよ。」
一体いつになったら乾くんだろう。
このままだと、みんなの注目の的だ。
「じゃあ預かるね。」
「失礼しました。」
去り際に川上先生を見ると目が合って。
また吹き出しそうな顔をしてる。
ほら、こんなふうに。
私の失敗を、笑いに変えてくれる川上先生。
それに、笑うだけじゃなくて。
ちゃんと気遣ってくれる先生。
これでは、先生を守るどころじゃなくて、守られるばっかりだって。
少し、情けなくなった。
あの放課後のことは、一生忘れない。
優しい優しい先生。
昔話をしてくれる先生。
次の日は、朝から雨が降っていた。
傘を持っていなくて、でも駅から高校まで、15分ほど歩かなくちゃいけなくて。
私は、カバンで頭を覆いながら、必死に走った。
学校につくと、制服がびしょびしょで。
白いブラウスが腕に張り付いている。
それに、もう秋だからかなり寒い。
悲惨だ―――
だけど、私は倉木先生に渡すものがあったから。
先生を待っていなければならなかった。
職員会議が始まる前に、どうしても倉木先生をつかまえたくて。
でも、職員室を覗いても、まだ来ていないみたいだったから、寒い廊下でずっと待っていた。
すると、エレベーターが4階から下りてきて。
ドアが開くと、川上先生が現れた。
タイミングがいいと言うべきか、悪いと言うべきか。
「なにお前、どうしたの?」
「傘忘れて。急に雨降ってきて。びしょびしょ。」
うまく日本語を話せない私を、先生は笑う。
「ばかだなー。」
「寒い。」
「誰待ってるの?」
「倉木先生。」
「中で待ってればいいじゃん。」
「え、でも……。」
「ほら、いいんだよ。」
そう言って、職員室のドアを開けて、振り返る先生。
「イヤ?」
そう言ったときの先生の顔に、一瞬見惚れて。
そして、すぐにぶんぶんと首を横に振りながら、職員室に入った。
ふっと笑って、行ってしまう先生。
よかった。
職員室の中、すごく温かい。
それに、コーヒーのいい匂いがする。
「あ、はるちゃん、どうしたの?」
「倉木先生、この間の原稿、……あ、濡れちゃったかな。」
私がカバンから出した、短歌の原稿は、端の方が濡れてぶよぶよになっていた。
「すみません、書き直してきます。」
「いいのいいの。私がどうせチェックするから。」
そう言って笑う倉木先生。
「雨に降られた、って感じだね。」
「ははは。そうなんですよ。」
一体いつになったら乾くんだろう。
このままだと、みんなの注目の的だ。
「じゃあ預かるね。」
「失礼しました。」
去り際に川上先生を見ると目が合って。
また吹き出しそうな顔をしてる。
ほら、こんなふうに。
私の失敗を、笑いに変えてくれる川上先生。
それに、笑うだけじゃなくて。
ちゃんと気遣ってくれる先生。
これでは、先生を守るどころじゃなくて、守られるばっかりだって。
少し、情けなくなった。

