そんなことがあって、弱くなってた私の心。

だからかな。

先生のこと、どんどん好きになっていった。



授業も進んで、遺伝が終わり。

やっと新しい章に入った。

嗅覚、味覚、聴覚、視覚、触角。

五感に関する授業は、とっても楽しかった。



授業中に、ファブリーズを持ってきて走り回ったりしてたね。

川上先生は、ほんとに面白い。



「今、香りの化学物質が、お前たちの鼻の奥の、嗅上皮、というところについたんだ。だから、香りを感じた。」



すごくいい匂いだった。

私、いまだに好きで、たまに同じ香りを買ってしまったりする。



「いい匂いだろ?おひさまの香りだ。齋藤先生に借りてきた。」



わっと笑いが起こる。

ちなみに、齋藤先生というのは体育会系の男の先生。

そのくせ、保湿のリップを持ってたり、何かと女性的で面白い。


笑いをとれて調子に乗った先生は、ファブリーズを両手で持って噴射しながら、教室をもう一周した。

何だか今度は、ノズルが霧になっていなかったみたいで、水鉄砲みたいに液が飛んでくる。



「先生、やだー!!」



教室が大騒ぎになって。

最後に私のところまで走ってきた先生は、笑いながらまた飛ばしてきた。



「もう、先生っ!!」



ノートが濡れて、よれよれになるっての!!


ばかみたいで、子どもみたいで。

そんな、先生がたまに見せる一面が。

私にとって、どれほど素敵に見えただろう。


先生の瞳の中に光る、幼さが。

私の心を捉えて離さなかった―――