遺伝は難しいって、そんな噂を聞いてた。

生物でつまずく人は、まず遺伝という壁でつまずくんだって。

だから、遺伝の授業は少しだけ憂鬱だった。


先生が黒板にすらすらと文字を書いていく。

横山先生のときは、授業は上の空だった。

机に落書きしたりして。

だけど、川上先生に教わるようになってから、一生懸命聞くようになった。



「じゃあ、今日はここで終わりです。」



うーん……。

何だこれ、分からないぞ。



「先生!」



授業後に、先生に呼びかけると、先生は私の机のところまでやってきた。



「何だ、横内。」


「これ、さっきの授業のとこ、どうしても違う比になってしまいます。」


「どれ?……汚い字書いてるからだろ。もっと綺麗に書けば分かる!」


「へっ?先生、ひどい。」


「いいからもう一度ちゃんと書いてみろ!」



そう言って去って行ってしまう先生。

ほんっとに口が悪い!!



「はるちゃんの字を汚いって言うとか、川上先生ありえないでしょ。」



咲子がかばってくれたけど……。

確かに、授業中の走り書きだから、字は汚い。

だけど、綺麗に書けば分かるって、そういう問題でもないでしょ!!



授業が終わって、教室を移動しなきゃならないのに。

私は名残惜しくノートとにらめっこを続けていた。



「晴子、行くよ!」


「待って、ちょっと待って!」



さっきより、綺麗な字を心がけて書いてみる。



「あ――――」


「晴子ってば!」


「出来た!!!」



先生の言ったこと、ほんとじゃん。

綺麗に書いただけで見やすくなって、見落としてたところに気づけた。

先生のたった一言で。



そこからかな。

私は、本当の意味で生物を好きになっていった。

川上先生のおかげで。