そして始まった新学期。

先生の、最初の授業の内容まで、私はくっきり覚えてる。



一番最初に先生は、黒板に大きい字で自分の名前を書いた。


―――川上裕一



「えー、今年から教科担任になりました、川上です。よろしく。」



その年、生物を選択していたのは、二クラス合わせても20人に満たなかったと思う。

そんな少人数のクラスを受け持ったのが、川上先生だった。

一年、生物を勉強していくことに、私はすごく、わくわくしていた。


最初に、先生が配ったプリント。

生物に関するトピックが、いくつか載っていた。

それは、どれも知らないことばっかりだった。


ダウン症は、21番染色体を一本余計に持っていることによって、発症する病気だということ。

将来起こりうる、男女の産み分けの話。


今まで、暗記教科としか思っていなかった生物が、一気に現実に引き寄せられた気がした。

すごく、すごく面白かった。


後で分かったことだけれど、先生は大学が、理学部出身だったから。

だから、あんな授業ができたんだと思う。

私は、その最初の授業だけで、川上先生に対する期待がもっともっと高くなっていったんだ。